白黒的絡繰機譚

遅すぎる、

「ごめんなさい」

何故、そんなことを言う? 何故……泣いている?
俺はもう立ち上がれない。損傷が激しすぎて、辛うじて動くのは目と口ぐらいだ。

「ごめんなさい……」

そう言いながら泣いているのは、俺をそんな風にした張本人――ロックマン。

「何故、泣く?」
「だって僕は……クイックマン、貴方を壊してしまったから」

壊したから泣く?
俺たちは敵対する者同士、壊すのは当たり前だ。
そんな当然なことでこのロボットは泣くというのか?

「そんなことで……ロックマン、お前は泣くのか」
「そんなこと?僕が貴方を壊すことはそんな軽いことじゃない……」
「……俺たちは敵同士、戦って負けた方は壊れる。当たり前のことだ」
「……僕の敵は世界の平和を乱すワイリー博士であって貴方じゃない。僕に貴方を壊さなければいけない理由なんて、本当はないんだ」

それなのに、こんな事をしてしまってごめんなさい、と小さなロポットが泣く

「…………」

馬鹿みたいだと、思った。
俺を作ったのはお前の敵。その事実があれば、理由なんて有り余るほど作れるというのに。
このロボットは……世界の平和を背負うには優しすぎるのだ、きっと。

「……早く、止めを刺せ」

そして、その優しさがお前の弱点なのだろうな、ロックマン。
それが命取りにもなりかねない、だから、俺は。

「でも」
「刺さないのか? 刺さなければ俺は修理され、きっとまたお前の前に立ちはだかる。お前の敵として、ワイリー博士の望みのために」
「…………」
「平和を守るんだろう?俺に止めを刺すこともできないような奴が平和を守れるのか? なぁ、ロックマン!」

お前を傷つけるようなことをわざと口にする。
……別に死にたい訳じゃない。でも、こうしなければいけないと思った。
この優しい少年ロボットの為にも、彼の守りたいもの達の為にも。

「…………ごめんなさい。ごめんなさいクイックマン……」

ロックマンはまた涙を流しながら、ゆっくりとバスターを構える。
……それで良いんだ。
俺とお前は敵同士、それ以上でもそれ以下でもないのだから。

「――」

目の前が真っ暗になる。
けれども……もし、敵同士ではなかったなら……
いや、そうでなくとも俺は、お前を――。
……ああ、俺らしくもない。
何もかも遅すぎた、だなんて――。