白黒的絡繰機譚

隣の可能性は青々と

「アンタもよくやるな」

隣でぼそりと呟かれたそれが、自分に向けられてのものだと気がついたのはカップの中身を一口飲んでからだった。

「でしょ?」
「……」

思った返事と違ったのか、隣のスネークは微妙そうな顔をする。うん、まあ、そうもなるかな。頑張ってるね、なんてニュアンスじゃなかったもんね。
さっきまでハードもいた空間は、俺達二人にはちょっと広い。その広さを埋めるように、スネークは俺に声をかけた。
ここにいるのは全然似てない、似たもの同士。言ったらスネークは怒るかな?

「俺は、スネークが羨ましいけどなあ」
「嫌味で言って……ねえんだよなあアンタは」

はあ、と大きくスネークが溜息をつく。なんでそう思うんだ、とまたぼそりつ呟いたのを聞いて、俺は口を開く。

「だって、俺は甘えてるだけだから。ハードって優しいでしょ? だから絶対、きっぱりはっきり俺をどうこうしない。実際どう思っててもね」
「あー……? アンタからはそう見えるのか。へえ」

そう見える、かあ。スネークが言うとなんだか可能性があるように感じられるな。実際は……だけど。

「もしスネークみたいに、面と向かって拒絶されたら寝込むなあ俺」
「……それって褒めてねえよな貶してんだろ」

全然そんなつもりはないんだけどな。うーん、言葉ってどうにも難しい。勿論他のこともだけど。

「でもさ、別にジェミニはスネークのこと嫌いじゃないと思うよ?」

ジェミニは賢いから、蛇が嫌いだからってスネーク本人を見ないわけじゃない。俺がわざわざ言わなくたって、スネークも分かってるとは思うけど。ただ、スネークはちょっと本心を誤魔化しすぎだよね。もっと素直に、シンプルな言葉で言えばいいのにと思う。出来ないからこそのスネークなんだろうけど。勿論それは、ジェミニの方にも言えるんだろうけどね。似てないけど、たまに似てることするから、スネークとジェミニは。

「……そりゃどーも。アンタも別に、思ってるほど脈ナシじゃねえと思うけど」
「そうだったらいいなあ」

そうだったらいいけど、でも今のままでもこれはこれで、すごい幸せなんだと思う。思うけど、……うん、よくないなあ。欲望は、際限がない。全部欲しくなる。でもそういうの、ハードは嫌いだと思う。分かってるのに、俺にはどうしようもできない。

「あの面倒くさがりも別に全部が全部ってワケじゃないんだが……ま、アンタがそういう返事する間は駄目そうだけどな」
「なんで?!」

俺の驚いた顔を見て笑うスネークは、やっと何時もどおりで。……うん、お互い頑張ろうね、なんてね。